今日から、形容詞の活用に入っていきます。
第1章「用言」も折り返し地点を過ぎました。
今日も、しっかり学んでいきましょう。
前回の講座はこちら。
古文の形容詞は「し」で終わる
形容詞とは、ものの性質や状態を表す品詞です。
現代語では、「うれしい」「かなしい」など「い」で終わる特徴がありますが、古文では「うれし」「かなし」というように「し」で終止します。
当たり前のようでけっこう大事な点なので、しっかりおさえておきましょう。
「いみじ」など若干「じ」で終わる形容詞もあります。
形容詞の活用の種類
動詞には、全部で9種類も活用の種類がありましたが、形容詞の活用の種類はたったの2つです。
一つは「ク活用」でもう一つは「シク活用」です。
まずは、ク活用から説明しましょう。
ク活用
上の画像を見てください。形容詞の活用の種類で特徴的なのは、活用が二列あるということです。
左の列は「補助活用」と言って、主に助動詞を続ける場合に使います。
覚え方は2通り。
1)未然形→連用形・・・→命令形と横へジグザグに覚える
「く、から、く、かり、し。 き、かる、けれ、かれ」
2)右列→左列というように縦にジグザグに覚える
「く、く、し、き、けれ、◯。 から、かり、◯、かる、◯、かれ」
◯のところは「ちょん」と読みます。(僕はそう習いました。)
これ、「まる」とそのまま読んでしまうと左の列がかなり言いにくいのです・・
それに比べて、「ちょん」と読むと「から、かり、ちょん、かる、ちょん、かれ」と、とってもリズミカル。
覚え方はどちらでもいいです。声に出してみてリズムよく言いやすい方を採用しましょう。
シク活用
これはク活用に「し」をつけるだけです。なので、実際のところ、形容詞はク活用だけを覚えておけば問題ありません。
動詞と比べるといかに楽かが分かりますね。
ちなみに、ク活用とシク活用をどうやって見分けるかですが、「連用形」にしてみれば一発で分かります。
連用形にする=「て」をつけるんでしたね。
ちょっとやってみましょうか。
例題:次の形容詞を連用形に活用させて、ク活用orシク活用かを判別せよ。
1、うれし
2、いたし
3、つらし
4、憂し(うし)
5、まめまめし
6、おぼつかなし
<解説>
解説も何も、それぞれに「て」をつけてみるだけです。
1うれし→うれしくて シク活用
2いたし→いたくて ク活用
3つらし→つらくて ク活用
4憂し→憂くて ク活用
5まめまめし→まめまめしくて シク活用
6おぼつかなし→おぼつかなくて ク活用
ただし、4以降は現代語にはないので、「て」をつけてどう変化するかが想像しにくいかもしれません。でも古文に触れていくうちに少しづつわかってきますから、心配は無用です。
慣れるまではとにかく終止形に戻そう
形容詞の厄介なところは「文中にあっても形容詞と気付きにくい」ところです。
これも例題で見てみましょう。
例題:次の文章から形容詞を4つ抜き出して、1)活用の種類と、2)活用形を答えなさい。
「かたはらいたきもの。・・・思ふ人の、いたく酔ひて、同じ言したる。・・・それは、何ばかりならねど、使ふ人などだにいとかたはらいたし。憎げなる児を、おのが心地のかなしきままに・・・」
<解説>
全部分かりましたか?
答えです。ここにありました。
「1かたはらいたきもの。・・・思ふ人の、2いたく酔ひて、同じ言したる。・・・それは、何ばかりならねど、使ふ人などだにいと3かたはらいたし。憎げなる児を、おのが心地の4かなしきままに・・・」
分かりやすいように番号をふりました。では、それぞれ見ていきましょう。
1「かたはらいたき」。「いたき」で分かるように「し」が入っていません。よって「ク活用」。
活用形は「もの」が続くので、連体形ですね。
答え:ク活用。連体形
2「いたく」。これも1と同様、「し」がないのでク活用で決まり。活用形は後の「酔ひ」と消してみると「いたくて」となりますね。連用形です。
答え:ク活用。連用形
3「かたはらいたし」これは1と同じ動詞です。文がここで終わっているので終止形。
答え:ク活用。終止形
4「かなしき」。これが唯一のシク活用です。活用形はあとに続く語からも判断できますが、さきほど勉強した「く、く、し、き、けれ・・」からでも特定が可能です。
「かなしき」は「く、く、し、き、けれ、◯」のうちの「き」ですね。シク活用なので「かなしく、かなしく、かなし、かなしき、かなしけれ」と活用していきます。よって連体形です。
答え:シク活用。連体形
形容詞は活用が二列あるため、変化のバリエーションが多く見つけにくいです。慣れるまでは一旦終止形の形を確認して「あ、形容詞だ」と判別するようにしましょう。
音便
今日最後の項目です。
中学校のとき、「竹取物語」をやったと思います。あの冒頭って覚えていますか?
「今は昔、竹取の翁といふものありけり。・・・」ってやつです。
この冒頭の一部に「三寸ばかりなる人、いとうつくしうて居たり。」という文があります。
この「うつくしう」という語、形容詞の「うつくし」が活用したものなのですが、活用形が何だか分かりますか?
えーと、「く、く、し、き、けれ、◯。 から、かり、◯、かる、◯、かれ」
ん?!
「う」なんてないって。先生、本文まちがってますよー
いいえ、「うつくしう」で合ってます。
あとに続く語で考えると、「て」が続きますから、連用形だと分かります。「うつくしう」は連用形なのです。
とは言っても、連用形のところは「く」であって、「う」ではありません。
実は、「うつくしくて」が「うつくしうて」に変わってしまうケースが存在します。このようにして、音が変化することを「音便(おんびん)」と言います。
どうしてそんなことが起こるのか。実際にそれぞれを読んでみてください。
「うつくしくて」
「うつくしうて」
どっちが言うの楽でした?
多分、「うつくしうて」の方ではないでしょうか。こちらの方が言いやすく、聴いていても滑らかに感じると思います。
このように音便は、語感をよくするためであるとされています。
特に、古文の世界では、書物を書いたり読んだりよりも、圧倒的に直接会って、話す・聞く場面の方が多かったことでしょう。だから、音というのは非常に重要な要素だったのです。
先ほどの「うつくしく」→「うつくしう」は音が「う」へと音便したので、「ウ音便」と言います。
(これを授業でやると、いつも生徒が「ウォンビン!(韓国の俳優さん)」と言って喜んでいます。)
他にも「ん」の音に変わる「撥音便(はつおんびん)」、「つ」に変わる「促音便(そくおんびん)」などがありますが、差し当たりは必要ないので割愛します。
まとめ
・形容詞はク活用とシク活用の2種類があり、活用の仕方は片方だけ覚えておけばOK
・文中で形容詞を見つけるのは慣れるまでは大変なので、終止形の形と照らし合わせるようにする
・「うつくしく」→「うつくしう」のように、続く語との語感をスムーズにするために「音便」という音の変化が起こることがある。
個人的に、古文単語で覚えるべきもののうち、形容詞の割合は多いように感じます。
それだけ、文章の読解には大切な形容詞。確実に文中から見つけ出せるようにしましょう。
◯次の授業はこちら。