さて、尊敬の助動詞の後半戦です。
※前回はこちら
今日は、「す」「さす」「しむ」という、尊敬の他に「使役(しえき)」という意味を持つ助動詞を紹介していきます。
前回同様、「す」「さす」はひとまとめにできるので、実質新たに習うのは2つ分です。
はりきっていきましょう!
「す」「さす」「しむ」の基本情報
文法的意味や接続は3つとも同じなので、ここで一度にまとめてしまいます。
<尊敬の助動詞「す」「さす」「しむ」>
◯文法的意味
1、尊敬(〜なさる)
2、使役(〜させる)
◯接続
未然形
◯活用
下二段型
「す」と聞いて思い出すものはありませんか。そうです、サ行変格活用動詞の「す」がありましたね。
あれは動詞で、今回のは助動詞です。品詞が違うため、持っている意味も違います。そして、活用の仕方も違うので、サ変動詞の「す」とは全く別のものだと覚えておいてください。
接続は、「る」「らる」と同じ未然形。尊敬グループの助動詞「る、らる、す、さす、しむ」は全て未然形接続です!
使役とは相手に何かをさせること
使役という言葉、ちょっと聴き慣れないですが、「人に何かをさせる」という意味を表します。「使い走り」というイメージでしょうか。
先輩が後輩に「おい、ちょっとジュース買ってこいよ」と指示するのも、先輩が後輩を「使役」しているということになります。(こわい・・)
一方で、美容院で髪を切ってもらう、というのも見方を変えれば「美容師さんに髪を切らせている」ということになり、これも使役です。現に、英文法の使役動詞には「〜してもらう」という表現も含まれていますね。
古文の世界で言えば、使役は「偉い人が家来に何かをさせる」という文脈で用いられます。
また、実際に登場するのは「す」「さす」がほとんどで、「しむ」は正直あまり出てきません。
使役「しむ」は漢文でもおなじみ
すでに漢文をやったことのあるみなさんなら「しむ」と聞いてピンときていると思いますが、この「しむ」は、漢文では「使む」と書き、「使役形」と呼ばれる句法として知られています。
AをしてBせしむ=AにBさせる、という風にして覚えていきますね。
古文の中心世界となる平安時代では、公式の文書はすべて漢文で書かれていました。当時の日本は、大帝国だった唐の政治制度を手本にして、法律を定めたり都を整えたりしていました。
古典で漢文を習うのは、当時の日本は漢文と切っても切れない関係があったためです。
意味の判別法
さて、基本情報がわかったところで、実際にどのように使役か尊敬かを見分けていくのかを説明します。
見分けるポイントは2つです。
- 下に尊敬語があるかどうか
- 「〜に」にあたる対象がいるかどうか
順番に見ていきましょう。
ポイント1:下に尊敬語があるかどうか。
ポイント1 下に尊敬語があるかどうかを確認!
◯尊敬語なし→使役で確定
◯尊敬語あり→ポイント2へ進む
「す」「さす」「しむ」が単独で尊敬の意味を表すことはまずありません。なぜなら、尊敬の助動詞を使わなくても「敬語」というものが存在するからです。(「敬語」は第3章で扱う予定です。)
敬語とは目上の人に対して敬意を表すための語です。そんな敬意表現に特化したアイテムがあるなら、尊敬の「助動詞」よりも先に使うのが自然でしょう。
ゆえに、敬語(尊敬語)が下に来ていない、ということはそれは敬意を表す対象がいない、ということですから、「す」「さす」「しむ」は使役の意味で使っていると判断してOKです。
「尊敬語って何だ」と思うかもしれませんが、さしあたりは「給ふ(たまう)」という言葉だけを知っておいてもらえれば大丈夫です。
ただし、敬語(尊敬語)と尊敬の助動詞をダブルで使う、ということはあり得ます。
そのため、下に尊敬語が来る場合は、使役or尊敬をこの時点で決定することはできません。
実際の例で言えば、
・せ給う
・させ給う
などが「す」「さす」+尊敬語のパターンです。
ポイント2:「〜に」があれば使役
尊敬語が下にある、ということは偉い人が文章に登場しているということですね。
すると、使役、尊敬、どちらの意味もあり得ることになります。
なぜなら、偉い人が何かを家来にさせる(使役)、という展開も、偉い人に敬意を表す(尊敬)という展開も普通に想定できるからです。
この場合、どうやって見分けていけばいいのでしょうか。
方針としては、
これは「明らかに使役だろう」というものは使役で、それ以外は尊敬
という考え方でいきます。
そのポイントとなるのが、「〜に」が文中にあるかどうかです。
使役=人に何かをさせるですから、「〜に」という「されられる側」が文中にいれば、「す」「さす」は使役の意味だと判断できます。
ただ、文に「に」という文字がなくても、文脈上「させられる側」がいると分かっているなら、使役の可能性があります。
この使役か尊敬かの判断はけっこう厄介で、ある程度練習して慣れる必要があります。
先ほども言った
「これは明らかに使役だろう」というものは使役で、それ以外は尊敬
という絞り込み方を意識しながら、文法ドリルなどで演習を重ねていきましょう。
では、ここまでをまとめます。
<使役or尊敬の判別>
1、下に尊敬語(給ふ)が来ていない→使役
2、下に尊敬語があるが、「〜に」にあたる対象がいる→使役
3、上記以外の場合→尊敬
「まずは使役の可能性を考えて、そうでなければ尊敬」の流れを抑えてください。
漢文の知識とリンクさせよう
先ほど少し紹介した漢文の「使役形」について、もう一度触れておきましょう。
「AにBさせる」と表現したい場合、「AをしてBせしむ」と書くのでした。
この「〜をして」というのは古文にも登場します。
他にも、「人を遣(や)りて〜しむ」という言い方も漢文ではよく使われ、古文でも用いられることがあります。(人を派遣して〜させる、という意味)
よって
・〜をして
・〜を遣りて
などが来たあとの「す」「さす」「しむ」は使役の可能性が高いです。
このように漢文での知識が古文でも生きてきますね。
国公立大の勉強って、受験科目が多くて大変ですが、このようにして別の教科・科目と連携させることで、知識の定着を相互に高め合うことができます。
◯参考
まとめ
今日のまとめです。
・尊敬・使役の助動詞「す」「さす」「しむ」
・下に尊敬語がなければ使役一択
・下に尊敬語があれば、まず使役の可能性を考慮し、それ以外は尊敬
さて、これで尊敬の助動詞も無事クリアです。お疲れ様でした^^
今日までに学んだ助動詞は全部で13。
いや、なかなか頑張りました。
次回は、いよいよ助動詞のハイライトとも言える大物に挑みます。
できる限りしっかり説明していきますので、頑張ってついてきてください^^
次はこちら→【助動詞の牙城】推量の「む」「むず」を徹底解説!
※助動詞編のはじめはこちら
※用言編のはじめはこちら
→動詞の活用をわかりやすく説明【古典文法の復習はここからスタート】