古典文法講座

尊敬の助動詞「る」「らる」を説明!【意味の判別法も紹介】

前回は、断定の助動詞をクリアしました。

断定の助動詞「なり」「たり」を特集【形容動詞との見分けがカギ】

今日から新たに尊敬の助動詞に進んでいきましょう!

尊敬系統の助動詞は全部で5つ。

る、らる、す、さす、しむ。

今日は前編ということで、「る」と「らる」を勉強したいと思います。では、がんばっていきましょう!

る、らるの基本情報

<尊敬の助動詞「る」「らる」>

◯文法的意味

1、受け身(〜られる)

2、可能(〜できる)

3、尊敬(〜なさる)

4、自発(自然と〜になる)

◯接続

未然形

る、らるは活用表を見ても分かるように、ほとんど変わりません。したがって、2つを1セットで覚えてしまいます。

4つの文法的意味

基本情報を見て、まず目に留まるのは文法的意味が4つもあることでしょう。しかし、心配はいりません。この「る」「らる」は現代文法と全く同じ使い方をするからです。

現代語でそれぞれの例文を考えてみます。

1、受け身・・・サメに食べられる

2、可能・・・この家なら住め

3、尊敬・・・先生が帰られる

4、自発・・・小学校の自分が思い出される

すべて古典文法の「る」「らる」の意味は、今でも使われていますね。

ちょっとわかりにくいのが「自発」ですが、これは「自分が意図とは関係なく自然とそうしてしまうこと」を意味します。

例えば、中学校3年生の受験勉強の時によく聞いていた曲があって、それを高校生になった今も再生すると、その時の思い出とか気温とか考えていたこととかが自然と思い出されるみたいなこと、ありませんか?

このように「〜せずにはいられない」という思い、感情を表現するのが「自発」です。

どうやって意味を判別するか

現代語なら、文章中に出てきた「る」「らる」が4つのうちのどの意味かを判断することは簡単でしょう。しかし、古文となると、文章の意味を完璧に理解できないことが多く、どの文法的意味にしてよいか分からなくなってしまいます。

→参考:古文が読めない人向け、古文読解の秘訣【これを意識してください】

なので、「こういう時はこの意味になることが多い」という傾向をある程度知っておきましょう。

 受身:「〜に」にあたる人・ものがある

先ほどの現代語の例でもそうでしたが、「サメに食べられる」のように「〇〇に」という存在が文中にあれば、その「る」「らる」は受身である可能性が高いです。

この「〜に」というのは、「〜によって」と同義であり、英語の受身の文で言えば、by〜の部分になります。

 可能:「ず」を伴って「〜できない」のパターン

前回も出てきた「これも仁和寺の法師」から引用しましょう。

「抜かんとするに、おほかた抜かず。」

→「(器を頭から)抜こうとするけれども、全然抜くことができない。」

このように打消の助動詞「ず」を引き連れて、「〜できない」の意味で登場する場合が多いです。

「る」「らる」を単体で使う場合としては、徒然草の次の文が有名です。

「家のつくりやうは、夏をむねとすべし。冬はいかなる所にも住ま。」

→家の仕様は、夏を中心として建てるのがよい。冬はどんなところ(家)でも住むことができる

僕は京都に住んでいますが、京都の夏は本当に暑いです・・冷房のなかった当時を考えると、兼好のアドバイスは実に的確だったのかもしれませんね。

 自発:知覚、感情の動詞と一緒に出てくる

先ほど、自発=「自然と〜してしまう」と言いました。「自然と〜してしまう」動作を考えると、それは見たり聞いたりする知覚動詞や泣いたり笑ったり、驚いたりといった感情の動詞であるでしょう。

自分が意識しなくても何かが聞こえてくることってありますし、自然と泣いてしまうということも人間誰しもあることです。

だから、こうした知覚・感情系の動詞にくっつく「る」「らる」は「自発」の意味である率が高いです。

 尊敬:上以外のパターン

「〜に」という対象も出てこないし、打消の助動詞もない、そして、知覚・感情系の動詞もないという場合、「る」「らる」は尊敬の助動詞と判断します。ただし、敬意を払うべき偉い人が登場している前提です。

以上をまとめます。

<「る」「らる」の意味の判別>

1、「〜に」という対象がある→受身

2、打消の「ず」が後ろにくっついている→可能

3、知覚・感情系の動詞にくっついている→自発

4、上記以外、偉い人が出てきている→尊敬

僕の印象ですが、文法問題ならと1と3、現代語訳の問題なら3が狙われやすいです。いずれにせよ「自発」は要注意です!

必ず文意が通るかどうかを確認

上の見分け方で「よし、この意味だな」と見当がついたとしても、必ずその意味で訳して自然かどうかを確認しましょう。

上の見分け方が百発百中というわけではありません。

古文上達のヒント〜文脈判断と判別知識〜

百発百中じゃないなら、わざわざ見分け方なんて覚えなくても、全部文脈で意味を判断していけばいいじゃないか、と思うかもしれません。

これはある程度勉強ができる、古文ができるという自負のある人なら誰しも抱く疑問です。

しかし、文脈判断だけでいこうとすることには2つの危険があります。

まず、1)文章を誤読していた場合、判別を間違えてしまう可能性があります。

本当はAさんがBさんに対してした行動なのに、間違ってBさんがAさんにした行動だと読み取っていたなら、助動詞の文法的意味も微妙に変わってくる恐れがあります。

そして、古文を100%完璧に読解できるということはまずないので、こういったミスリードは誰にでも起こり得ます。文脈判断だけでは判別の精度に不安が残ってしまうわけです。

もう一つは、2)時間がかかるという点です。

助動詞が出てくるたびに文脈判断をしていたのでは、時間がいくらあっても足りません。特に共通テストの問題は文章量が多く、古文を20分以下で解き終えなければなりません。時間との戦いになることは必至です。見分け方を学び、すぐ使えるようにトレーニングしておくことで、判別の時間を節約でき、より読解に集中することができます。

もちろん、判別知識は万能ではありませんが、文脈判断と組み合わせることでその効果は十分に発揮されます。面倒かもしれませんが、しっかり覚えていきましょう。

まとめ

今日のまとめです

・尊敬の助動詞「る」「らる」は2つで1つ

・4つの文法的意味を持つが、使い方は現代文法と一緒

・判別法、文脈判断のダブルチェックをしよう

4つの文法的意味、判別法など、「る」「らる」は助動詞の“中ボス的位置付け”と言えるかもしれません。

なぜ「中ボス」かというと、、それはこれから分かります。

次回は、尊敬の助動詞の続きをやっていきましょう。

お疲れさまでした^^

次はこちら→尊敬の助動詞「す」「さす」「しむ」を説明【漢文とリンクさせよ】

 

・第2章「助動詞」をはじめから見たい方はこちら

助動詞完全攻略!まずは全体像をつかもう【古典文法】

・第1章「用言」をはじめから見たい方はこちら

動詞の活用をわかりやすく説明【古典文法の復習はここからスタート】

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