古典文法講座

【時空を超えて】推量の助動詞「らむ」「けむ」を解説します!

前回は、文法的意味を6つも持つ大型助動詞「む」「むず」を学びましたね。

【助動詞の牙城】推量の「む」「むず」を徹底解説!

今日はその兄弟とでもいうべき「らむ」と「けむ」という二つの助動詞について説明していきます。

なんとなく「む」が入っているし、似ているというのは感覚的にも分かりやすいかと思います。

「似ているってまさか、また6つも文法的意味を覚えなきゃダメなの?」と思ったあなた、安心してください。

「らむ」も「けむ」も「む」に比べるとはるかに楽です。

「らむ」「けむ」は、推量系の助動詞に分類されますが、正確には「らむ」が現在推量、「けむ」が過去推量という意味を持っています。

どちらも推量の助動詞「む」より特殊な場面で使える推量だと思ってください。

では、それぞれの助動詞について、詳しく見ていきましょう!

「らむ」の基本情報

<現在推量の助動詞「らむ」>

◯文法的意味

・現在推量(今ごろ〜ているだろう)

・原因推量(どうして〜のだろう)

・現在の伝聞・婉曲(〜そうだ、〜ような)

◯接続

終止形

文法的意味には、「む」でも出て来た「婉曲」が再び出て来ています。この後やる「けむ」も婉曲をもっており、このあたりからも「む」の兄弟分であることが伺えます。

「らむ」の接続は終止形。「む」が未然形接続だったので、つられて未然形にしてしまわないように注意しましょう。

現在推量は「同じ時間の違う場所」のことを考える

現在推量の持つ意味をよく表している次の和歌をもとに考えてみましょう。

夏の夜はまだ宵ながら明けぬるを雲のいづこに月宿るらむ

訳:夏の夜は(とても短いので)まだ宵であると思っているうちに明けてしまったのだが、今頃、雲のどこに月が隠れているのだろう

清原深養父という人が読んだ和歌で、百人一首にも収録されている有名なものです。

宵というのは、夜の最初の部分を指す言葉で、上の句で夏の夜の短さを際立たせています。

そして注目すべきは、下の句の「雲のいづこに月宿るらむ」ですね。

訳では「今頃、雲のどこに月が隠れているのだろう」としましたが、このように「自分からは見えないけど、今〜しているだろう」と思いを馳せるのが、現在推量の持っている意味範囲です。

身近な例えを出すと、

夏休みのある日、今日も自分は勉強三昧・・でも弟は友達とキャンプに行っている。いいなーキャンプ。今頃、川で遊んだり、バーベキューしたりしてるんだろうなー、いいなー

これも「今自分から見えない場所にいる弟を想像する」という現在推量です。

何となくイメージがつかめました?

原因推量は「見えているもの」を深く考察する

それでは続いて原因推量に行きます。

現在推量が違う場所のことを考えるのに対し、原因推量は見えている範囲の現象やものごとの理由を洞察するという意味で使います。

見えていない違う場所を考える現在推量、見えているものの理由を考える原因推量、この区別を確認してください。

過去推量の助動詞「けむ」の基本情報

<過去推量の助動詞「けむ」>

◯文法的意味

・過去推量(〜たのだろう)

・過去の原因推量(どうして〜たのだろう)

・過去の伝聞・婉曲(〜たそうな、〜たような)

◯接続

連用形

活用表をみても分かるように、「らむ」の「ら」が「け」に変わっただけです。そして、「らむ」「けむ」両方とも、「む」と活用の仕方は同じです。

「けむ」が表すのが「過去推量」。過去×推量の助動詞というわけです。

接続は連用形。さて、以前僕が過去の助動詞を説明したときに言ったことを覚えているでしょうか。

→忘れてしまった方は、こちらからご確認を。

そう、過去は連用形接続!でしたね。

「らむ」と「けむ」どっちが現在でどっちが過去か分からなくなりそう・・という方は「けむ」の「け」が過去の助動詞「けり」の「け」と同じと覚えておけば、間違えずにすみます。

過去推量は昔に思いをはせる

現在推量が違う場所、つまり空間的に離れたところに思いを向けるのに対して、過去推量は過去、つまり時間的に離れたところに思いを向けます。

例えば、ふと昔を思い出して、「昔はよく友達とテレビゲームして遊んだな・・」と考える、これが過去推量です。

※原因推量は、現在推量の場合と同じなので割愛します。

「らむ」「けむ」の判別法

それでは、今日も意味の判別法に進みましょう。

今日は、先に判別法をまとめておきます。

<「らむ」「けむ」の意味の判別法>

1、「らむ」「けむ」が文中にある→婉曲ときどき伝聞

2、「らむ」「けむ」が文末にあって、上に「や」「か」などの係助詞がある→原因推量

3、文末で2以外→現在(過去)推量

※2、3の見分け方はあくまで手がかり。100パーセントそうなるわけではない。

 ポイント1:文中なら婉曲

まず、1の「文中なら婉曲」というのは「む」でもお馴染みですね。

ほとんどが婉曲でさばけます。どうしても意味がおかしくなるとき、伝聞で訳をしてみるという感じでいくとやりやすいです。

<注意:挿入句は婉曲にならない>

引用の「と」が文末扱いになるというのは前回学びましたね。

他にも文中で注意したい例が、「挿入句」です。

源氏物語などで多く見られるのですが、物語の中で随所に作者の考え、感想などが差し込まれることがあります。

よくある挿入句の形が「〜にやありけむ(訳:〜だったのだろうか)」です。

もうお分かりですね。この「けむ」は過去推量の助動詞です。そして、文中にあるものの、筆者の考え・感想なのでいわば「」扱いになります。

よって、ここの「けむ」は婉曲にはなりません。この「〜にやありけむ」という形は本当にたくさん出てくるのでぜひ覚えておきましょう。

 ポイント2:文末+「や」「か」があれば原因推量

「や」「か」とは、疑問を表すことのできる助詞です。こういった助詞と一緒に使われる「らむ」「けむ」は原因推量になる可能性が高いです。

しかし、あくまで可能性が高いなので、訳を当てはめてみてしっくりくるかどうかをきちんと確認しましょう。

 ポイント3:文末でポイント2以外は現在(過去)推量

他の助動詞同様、他の可能性を考えて、なさそうなら基本の意味、という流れです。

文末に「らむ」「けむ」があって、原因推量となるポイントがなければ、現在(過去)推量と考えていきます。

ある程度、判別法で絞り込んで、そこからは文脈判断で意味を決めにいく、というのが基本ですね。

まとめ

今日のまとめです。

・現在推量「らむ」は現在の空間的に離れたところを想像する

・過去推量「けむ」は過去の時間的に離れたところを想像する

・文中では婉曲、文末では推量or原因推量を文脈で見分ける

「む」「らむ」「けむ」と3連発で推量の助動詞を攻めました。

ちょっとハードなものが続いたので、次回は気分を変えて、ちょっとおもしろい助動詞をやりたいと思います。

それでは、今日もお疲れ様でした^^

次回はこちら→【古文版の仮定法】反実仮想の助動詞「まし」を紹介

 

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