古典文法講座

【古文版の仮定法】反実仮想の助動詞「まし」を紹介

前回まで、ガチガチの推量系助動詞を学んできました。

→前回はこちら:【時空を超えて】推量の助動詞「らむ」「けむ」を解説します!

今日は、同じ推量系なのですが、ちょっと面白い「まし」という助動詞をやりたいと思います。

「まし」は「反実仮想」という意味をもつ助動詞です。

この「まし」のおかげで、表現できる世界が一気に広がります。

では、「まし」とはどんな助動詞なのか、一緒に見ていきましょう!

「まし」の基本情報

<反実仮想の助動詞「まし」>

◯文法的意味

・反実仮想(〜なら〜だろうに)

・実現不可能な願望(〜ならいいのに)

・ためらいの意志(〜しようかしら)

・推量(〜だろう)

◯接続

未然形

反実仮想は英語でいう仮定法(If~)だと思ってください。現実ではないこと(=反現実)を仮に想像する(=仮想)ということです。

この反実仮想の意味を根本に持っているので、他の3つの意味にたいしても、控えめな印象を受けます。

2つ目の「実現不可能な願望」はまさに仮定法の守備範囲ですね。

本当は無理なんだけど、そう望んでしまう。人間なら誰しもあることかもしれません。

接続は未然形。未然「=まだそうなっていない」と仮想というのはなんだか相性が良さそうですね。

「まし」の判別法

<「まし」の判別法>

4つも文法的意味を持っているが、基本的には、「反実仮想」か「ためらいの意志」の2択。

1、ましかば〜まし、せば〜まし→「反実仮想」

2、文中に「や」「か」などの疑問を表す語がある→「ためらいの意志」

3、上記以外→文脈判断で「実現不可能な願望」or「推量」

反実仮想は圧倒的に「ましかば〜まし」「せば〜まし」の形で現れることが多いです。

 反実仮想の実際の例

反実仮想の例は、有名な小野小町の和歌から確認しましょう。

思いつつ寝ればや人の見えつらむ夢と知りせば覚めざらましを

さて、現代語訳はちょっと待ってください。

まず、反実仮想の“セット”がどこにあるか見つかりましたか?

そうですね。下の句の「知りせば覚めざらましを」のところがそうです。

だから後半は「夢と知っていたならば覚めなかったのになあ」となります。

では、上の句はどうでしょうか。せっかくなのでこれまで習った助動詞を組み合わせて考えてみましょう。

上の句の前半は特に文法事項がないのでスルーします。訳は「(愛しい人を)思いながら寝るので」ですね。

では、後半を見ましょう。

「人の見えつらむ」ですが、単語ごとに区切るならどのように切れるか分かりますか?

ちょっと考えてみてください。

 

おそらく

パターン1:人/の/見え/つ/らむ

パターン2:人/の/見え/つら/む

で迷ったと思います。

パターン1なら「つ」が完了の助動詞で「らむ」が現在推量の助動詞ですね。

他方、パターン2なら「つら」が同じく完了の助動詞で「む」が推量の助動詞といった感じでしょうか。

 品詞分解、解説

しかし、よく思い出してみましょう。

完了の助動詞「つ」はどのように変化するのでしたっけ。

て、て、つ、つる、つれ、てよ。そう、下二段活用型でした。

ということは、「つら」という形は(一見ありそうですが)存在しません。

よって、パターン1で決まりです。

では「つ」と「らむ」の文法的意味を決めに行きましょう。

「つ」は基本的には完了の助動詞なのですが・・・

大事なポイントがありましたね。直後に推量系の助動詞が来たとき「強意」になる、ということでした。

後ろに来ているのは現在推量「らむ」なので、このケースがあてはまります。

「つ」は強意の助動詞で決まり。

さて、活用形ですが、これは下の「らむ」の接続を思い出せば簡単です。

「らむ」は終止形接続(つまり、上が終止形になる)なので、「つ」は終止形です。

では、「らむ」はどうでしょうか。

見分け方はまず、文中か文末かを確認するのでした。

今回は、文末にあるので、次に「や」「か」などの疑問語がないかをチェックです。

すると「寝ればや」に「や」がありましたね。ということは原因推量の可能性高しです。

一応、文脈でも考えてみます。

「(愛しい人を)思いながら寝るので、きっとその人が姿を見せているのだろう」と意味的にもしっくり来ますね。(「きっと」で強意の訳を出しています)

つなげると現代語の訳はこうなります。

現代語訳:「愛しい人を)思いながら寝るので、きっとその人が姿を見せているのだろう。夢だと知っていたら覚めなかったのになあ」

ではまとめます。

◯解答

見え→ヤ行下二段活用動詞「見ゆ」の連用形

つ→強意の助動詞「つ」の終止形

らむ→現在の原因推量の助動詞「らむ」の連体形

 係結び

さて、最後です。

この「らむ」はなぜ連体形なのでしょうか?

ポイントはやはり「や」の存在です。

文中で「ぞ」「なむ」「や」「か」「こそ」があれば、文末が連体形または已然形に変化するというルールがありました。

これを係結びと言います。

「らむ」は係結びによって、連体形になっているのですね。

ついでに係結びについてもまとめておきましょう。

<係結び>

文中に係助詞「ぞ」「なむ」「や」「か」「こそ」が来たとき、文末が変化する。

・「ぞ」「なむ」「や」「か」→文末が連体形に

・「こそ」→文末が已然形に

できたでしょうか。

ちょっと忘れていたぞ、という方も大丈夫です。徐々に慣れていきましょう。

「まし」によって仮想世界が開かれる

この「まし」の存在は古典文法にとって、非常に重要です。

なぜなら、これにより、現実ではないことをも表現できるようになったからです。

・あのときこうしていたら・・

・もし私が鳥になれたら・・

こうした非現実を言語によって語ることができるのです。

それは言葉の世界を一気に拡大することになります。その点で、「まし」は多大な貢献をしているといっても過言ではないのです。

まとめ

では本日のまとめ

・反実仮想の助動詞「まし」は英語でいう仮定法

・ましかば〜まし、せば〜まし、とセットで来たら「反実仮想」

・文中に疑問語があれば「ためらいの意志」

今日は、「古文版仮定法」とでも言うべき反実仮想の助動詞について学びました。

こうして英語とのつながりが見えてくると、古典文法の学習も面白くなってきます。

次回は、意味的に近い「願望」の助動詞を扱います^^

次はこちら→願望の助動詞「まほし」「たし」を紹介【+助動詞小ネタ付】

 

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