前回は、助動詞最強とうたわれる推量の「べし」を攻略しました。
今回は、新たに「打消(うちけし)」という意味をもつ3つの助動詞を紹介します。
それが「ず」と「じ」「まじ」です。
「ず」については、動詞のところなどで出てきているのでなんとなく分かると思います。ここで改めてまとめておくことにしましょう。
残る「じ」「まじ」ですが、これは2大推量を学び終えたあなたなら、きっとすんなりと頭に入っていくでしょう。
では、今日もがんばっていきましょう!
「ず」の基本情報
<打消の助動詞「ず」>
◯文法的意味
打消(〜ない)
◯接続
未然形
◯活用
特殊型
実は、助動詞の中で一番始めに出てきていた「ず」。動詞の活用の種類を調べる時に、「ず」をつけてみるという方法を紹介しましたね。
※参考→【古典文法】動詞の活用の種類を識別するための簡単2ステップ
あの「ず」とは、まさに今やっている打消の助動詞「ず」のことです。
なぜ「ず」を付けたのかと言えば、未然形の形にして、それを手がかりに何段活用かを判断したかったからでした。
そうです、つまり「ず」が未然形接続ということも、すでに動詞のところでやっていたのですね。
まさに伏線回収といった感じです。
完了「ぬ」との識別法ーその2
「ず」で気を付けたいのが「ぬ」という形に変化することです。
このため完了の「ぬ」と間違えやすいぞ、ということを以前やりました。
そのときは見分ける方法として「上を見よ」ということを教えました。
完了「ぬ」は連用形、打消「ず」は未然形に接続するので、これで判断しようというわけです。
しかし、この方法には盲点があります。
もうお気づきかもしれませんが、未然形と連用形が同じ形の動詞の場合、この方法では判断できません。
未然・連用形が同じ形である動詞にはどんなものがあるかというと・・
久しぶりに四段活用から下二段活用まで変化させてみましょうか。
はい、実は四段活用以外全て未然形と連用形の形が一緒なんです。(変格活用を除く)
なので、新しい判別法を習得しなければなりません。
では、どこに注目すればいいのでしょうか。
打消しの「ず」、完了の「ぬ」の「ぬ」がそれぞれ何形かを確認してみてください。ここに見分ける手がかりが隠れています。
ちょっとそれぞれの活用表を出してみましょうか。
完了の「ぬ」は終止形で「ぬ」なのに対し、打消の「ぬ」は連体形の形が「ぬ」になっています。
つまり、同じ「ぬ」であっても活用形が違うのです。
そして、活用形が違うと言うことは、その後ろに続く語も違ってきます。
これが新たな判別法です。
練習問題
例題で練習してみましょう。(文は僕のオリジナルです)
◯次の「ぬ」は打ち消し、完了のどちらの助動詞か?
1、つとめて、卯の刻に起きぬ。
2、風や起きぬ。
3、はや、日も暮れぬ。
4、まだ日の暮れぬうちに、
みなさんも一緒に考えてみてください。
<解説>
まず1ですが、普通に「起きぬ」だけを見ると「起きない」と打ち消しの意味で訳したくなってしまうのですが、「ぬ」の活用形を考えてください。
文末にあるので、終止形ですね。
打ち消しの「ず」の終止形は当然ながら「ず」でなければならないので、この「ぬ」は完了の「ぬ」になるわけです。
では、2の「ぬ」はどうでしょうか。こちらも文末にあるので完了の「ぬ」と行きたいのですが、係助詞の「や」があります。
つまり、文末は係結びによって連体形へと変化します。よって、この「ぬ」は連体形で、正体は打消しの「ず」です。
3も、1と同様文末で、特に係助詞もないので、完了「ぬ」でOK
4は、「ぬ」の後ろに「うち」という体言が来ているので、この「ぬ」は連体形と分かります。よって打ち消しの「ず」です。
◯答え
1、完了の助動詞「ぬ」
2、打消の助動詞「ず」
3、完了の助動詞「ぬ」
4、打消の助動詞「ず」
この新しい識別法はどんな動詞が来ても使えるので、ぜひマスターしておきましょう。
では、「ず」についてはここまでにして、「じ」「まじ」を見ていきましょう。
「じ」の基本情報
<打消推量の助動詞「じ」>
◯文法的意味
・打消推量(〜ないだろう)
・打消意志(〜まい)
◯接続
未然形
◯活用
無変化型
「じ」はただの打消の助動詞ではなく、打消推量と言って「〜ないだろう」という意味を表します。
さあ、推量と聞いてピンときた人もいるのではないでしょうか。
この「じ」はちょうど推量の「む」の反対のような助動詞なのです。
文法的意味を見ても打消推量の他に打消意志があって、接続も未然形接続なので、なんとなく「む」っぽいですよね。
「まじ」の基本情報
<打消推量の助動詞「まじ」>
◯文法的意味
- 打消推量(〜ないだろう)
- 打消意志(〜まい)
- 不可能(〜できそうもない)
- 打消当然(〜はずがない)
- 禁止・不適当(〜てはならない)
◯接続
終止形
◯活用
形容詞型
※ごちゃごちゃして見にくいので、画像を大きくしました。
「じ」が「む」の反対なら、、
そうです、「まじ」は「べし」の反対にあたります。
当然→打消当然、命令→禁止など、文法的意味が完全に「べし」と対応しており、もちろん接続も「べし」と同じ終止形です。
ここで「む」「べし」「じ」「まじ」の4つを図にまとめておきましょう。
「じ」「まじ」の判別法
「じ」「まじ」が2大推量の反対ということは、やはり判別法も「む」「べし」と同様、文脈判断をするしかない、ということになります。
特に「まじ」は文法的意味が5つあり、そのいずれもそこそこ出てくるのでかなり厄介です。
2大推量と言いましたが、この子たちを合わせてもはや「4大推量」と呼んでもいいのかもしれません。
本当にこればかりは、慣れていくしかないので、地道に文法問題で練習を重ねていきましょう。
まとめ
今日のまとめです。
・打ち消しの助動詞「ず」が「ぬ」になるのは連体形のとき。完了「ぬ」と区別しよう
・打消推量の助動詞「じ」「まじ」はそれぞれ「む」「べし」の反対の意味をもつ
・「じ」「まじ」の識別は文脈判断。問題数をこなしてセンスを磨こう
「じ」「まじ」は「む」「べし」の反対という性質上、けっこう影の薄い?助動詞なのですが、「む」「べし」に匹敵するくらいの難易度があります。
この記事でもそこまで文量を使って解説していないのは、だいたいのことは「む」や「べし」のところで説明してしまっているからです。
「べし」に続いて大型の助動詞を扱いましたが、おかげで残る助動詞はあとわずかです。
残りは、さらっと流せるものばかりなので、この勢いで助動詞編を突破しましょう!
次はこちら→推定の助動詞「らし」「めり」「なり」を解説【情景をイメージ】
◯助動詞編のはじめはこちら
◯用言編のはじめはこちら
→動詞の活用をわかりやすく説明【古典文法の復習はここからスタート】