前回は、打消推量の助動詞ということで「じ」「まじ」を扱いました。(一応、「ず」もやりました。)
助動詞講座もあと2回となりました。
今日やるのは、推定の助動詞。
扱う助動詞は「らし」「めり」「なり」の3つです。
「べし」や「じ」「まじ」より難しいということはないので、安心して先へ進んでください。
「らし」の基本情報
<推定の助動詞「らし」>
◯文法的意味
・推定(〜らしい)
◯接続
終止形
◯活用
無変化型
「推定」という言葉が新しく出てきましたね。
推量とよく似ていますが、「定める」という字を使っているので、推量よりもやや断定寄りの判断を表します。
関係としては、
強 断定>推定>推量べし>推量む 弱
のような感じでしょうか。
接続は終止形。
活用は変化しないので覚えやすいですし、文中で出てきてもすぐに見分けることができます。また、未然形と連用形の形が存在しないことから、他の助動詞よりも後ろに置いて使います。
文法的意味についても、「らし」と「〜らしい」ですから、あえて意味を一生懸命に覚えなくてもいけそうです。
べし→じ→まじ、と進んできて疲弊した僕らを癒してくれるような助動詞ですね。
「めり」の基本情報
<推定の助動詞「めり」>
◯文法的意味
・推定(〜らしい)
・婉曲(〜ようだ)
◯接続
終止形
◯活用
ラ変型
「めり」も推定の意味をもつ助動詞です。こちらは、婉曲の意味も持っていますが、訳すときはそんなに区別する必要はありません。
接続は「らし」と同様、終止形です。「らし」「めり」は持っている意味も似ているし、接続も同じ終止形なので、セットで覚えることが多いですね。
めり=見たものに対する推定
「らし」「めり」「なり」と推定の助動詞がありますが、当然気になるのは、「それぞれに違いはないのか?」という点ですよね。
確かに、違いはあって、それは助動詞の成り立ちを知ることで理解できます。
「めり」はもともと
目+あり→めあり→めり
になったとされています。
つまり、「目」で見た範囲のことを推定するときに用いられる助動詞、というわけです。
よって、訳も「〜らしい」と書きましたが、正確には「(見たところ)〜らしい」となりますね。
これを知っておけば、「めり」=推定がパッと思い出せるのではないでしょうか。
「なり」の基本情報
<推定の助動詞「なり」>
◯文法的意味
・推定(〜らしい)
・伝聞(〜ようだ)
◯接続
終止形
◯活用
ラ変型
さあ、そして最後が「なり」です。
あれ、「なり」って前にもやらなかったっけ、と思った方。
はい、その通りです。以前やった「なり」は断定という意味をもつ助動詞でした。そうです、コロ助の「なり」です。
→断定の助動詞「なり」「たり」を特集【形容動詞との見分けがカギ】
断定にはもう一つ「たり」という助動詞がありました。この「たり」も二つあるのですが、もう一つは完了の助動詞です。
ややこしいですが気を付けましょう。
「なり」→断定・推定
「たり」→断定・完了
ですね。
なり=聞いたものに対する推定
「めり」が見たものに関して推定するのなら、「なり」は聞いたものに関する推定を表します。
こちらは
音(ね)+あり→ねあり→なり
となったとされています。
ゆえに、「なり」の訳は「(聞いたところ)〜のようだ」となります。
- カエルが鳴いているので、夏になったようだ。
- 水の音が聞こえるので、近くに川があるようだ。
こういった音を頼りとした推定が「なり」の守備範囲です。
ゆえに、「なり」のもう一つの意味が「伝聞」なのも納得ですね。
ウワサを聞いた、ということなので、まさに音に関する判断です。
断定「なり」との見分け方
断定「なり」は、形容動詞ナリ活用と区別する必要がある、ということは以前学びました。
→断定の助動詞「なり」「たり」を特集【形容動詞との見分けがカギ】
今回、新しい「なり」が登場したので、推定の「なり」と断定の「なり」の区別を学んでおきましょう。
<「なり」の判別法②>
1、上が体言or連体形→断定の「なり」
2、上が終止形→推定の「なり」
3、見分けがつかない場合、文脈で判断
ポイントの1と2は、接続の違いで判断する方法です。
断定「なり」は体言・連体形接続、推定「なり」は終止形接続なので、ここで見分けます。
見分けるためにぴったりの一文があるので、これを覚えてください。
男もすなる日記といふものを、女もしてみむとてするなり。
有名な『土佐日記』の冒頭の一文ですね。土佐日記の作者は・・・
そう、紀貫之(きのつらゆき)です。
さて、この一文には2つの「なり」が出てきていますね。
そして、その直前はどちらもサ変動詞の「す」です。
なんとおあつらえむきなのでしょう。
さて、それでは実際に二つの「なり」を分類してみましょう。
まずは前半の「なり」です。
男もすなる→サ変の「す」が「す」になるのは、終止形だけなので、これは終止形に付く「なり」で推定ですね。
一方、
女もしてみむとてするなり→「する」は「す」の連体形ですね。(現代語の感覚では「する」は終止形っぽいのですが、古文では「する」は「す」と言い切るので注意です。)
連体形接続の「なり」なので、断定の「なり」ですね。
訳は「男もするという日記」「女もしてみようと思って、するのである。」
◯おまけ
せっかく出てきたので、「してみむ」の「む」もついでに判別してみましょう。
「む」の判別法は覚えていますか?
まずは、文中か文末かを確認します。
今回は、文中・・と思いきや、「と」が続いています。
これは『引用の「と」』というやつで、「と」の前は、文末扱いになるのでしたね。
よって、この「む」は文末扱いです。
さて、次は主語が何人称かを確認です。
先ほどの「なり」の判別をもとにこの文を訳せば、「男もするという日記なるものを女も〜と思ってするのだ」という具合ですから、女というのは、私=筆者のことです。
つまり、主語は1人称です。よって、この「む」は意志の用法だと分かります。
文脈判断も必要
この土佐日記の一文を覚えておけば、断定と推定の「なり」を見分けることが容易になりますが・・
はい、勘の良い人ならお気づきでしょう。
終止形と連体形が同じ場合はどうするの、という問題がありますね。
例えば、四段活用の動詞は「あ、い、う、う、え、え」と活用するので、終止形と連体形が同じになってしまいます。
こういった状況では、先ほどの方法を使うことができません。
ゆえに、こうなってしまった場合は、文脈によって判断していくしかありません。
なんだか不便だなあ、と思うかもしれませんが、文脈を考えるのも古文の面白みの一つです。
面倒くさがらずにがんばってみてください。
とはいえ、先ほども言ったように、推定の「なり」は「音」がポイントなので、”音の出どころ”が示されている場合は、推定の「なり」になる可能性が高いと考えられます。万能ではないですが、手がかりにはなるでしょう。
まとめ
今日のまとめです。
・推定の助動詞「らし」「めり」「なり」はいずれも終止形接続
・断定「なり」と推定「なり」の判別は、『土佐日記』冒頭を思い出そう
・とはいえ、最終的には文脈で判断するしかない
さあ、これで残すところ助動詞はあと一つとなりました。
最後の一つは、割とあっさり終わってしまうので、あわせて助動詞全体のまとめを行いたいと思います。
では、次回を楽しみにしていてくださいね^^
◯助動詞編のはじめはこちら
◯用言編のはじめはこちら
→動詞の活用をわかりやすく説明【古典文法の復習はここからスタート】