古典文法講座

【助動詞の牙城】推量の「む」「むず」を徹底解説!

さて、今日からいよいよ助動詞の中でも、もっとも難しいと言われている推量の助動詞へと突入します。

※前回はこちら→尊敬の助動詞「す」「さす」「しむ」を説明【漢文とリンクさせよ】

推量の助動詞は文法的意味がたくさんありながら、頻繁に登場するため、数多くの受験生を悩ませてきました。したがって、入試にもたびたび出題されます。

とは言っても、やることはこれまでと変わりません。

ここまでしっかり講義について来て下さったあなたなら大丈夫です。

前置きはこれくらいにして、早速始めていきましょう!

「む」「むず」の基本情報

まずは、いつものように活用表を使って基本情報をおさえていきましょう。

<推量の助動詞「む」「むず」>

◯文法的意味

す推量(〜だろう)

い意志(〜しよう)

か勧誘(〜するのがよい)

て適当(〜するのがよい)

か仮定(〜すれば)

え婉曲(〜ような)  ※「えんきょく」と読みます。

◯接続

・未然形

なるほど、これは厄介ですね。文法的意味が全部で6つ・・

左端にひらがなで頭文字が書かれていますね。さすがに6つ全てを何もなしで暗記するのは大変なので、頭文字をつなげて「すいかてかえ」と覚えます。

ちょっと順番を入れ替えて、「すいかかえて(スイカ換えて)」と覚えてもOKです。

一番下の「婉曲」とはどういう意味か分かりますか。「婉曲」とは簡単に言うと、率直な表現をやわらかくすることです。

たまに「〜的な」「〜みたいな」といった言い方を多用する人がいますね。あのイメージが近いかもしれません。

そのままズバッと言ってしまうのはどこか味気ない、そっけない、だからオブラートに包んで言う。婉曲とはそういった意味を持っています。

「む」には婉曲の意味がある、これをよーく覚えておいてください。

ちなみに、前回の「す」「さす」と同様、「む」「むず」も二つで1セットです。

「む」「むず」の判別法

さあ、それではいよいよ文法的意味の判別法について学んでいきます。

意味が6つあるので、やはり大変なことは大変なのですが、ある程度見分け方というのも存在します。

ここをしっかり頭に入れて、最大限効率よく、正確に見分けが効くようにしていきましょう。

 ポイント1:文中なら「仮定」「婉曲」

まず判別しやすいものから行きましょう。

文の最後ではなく、文中に「む」が出てきた場合、その「む」はほぼ「仮定」か「婉曲」で決まりです。

そこから、仮定と婉曲をどう見分けるかですが、

・「〜むは」と来たら仮定、それ以外は婉曲

とさしあたり覚えてください。

あるいは、とりあえず「〜ような」と婉曲で訳しておいて、しっくりこない場合、仮定の訳に変えてみる、というやり方でもいいでしょう。

とにかく、文中にきた「む」は、婉曲ときどき仮定です。

注意!「文中でも婉曲にならないケース」

例外的に、文中で婉曲の意味にならないケースを紹介しておきます。

「いかがはせと思ひて、ながめければ」の「む」は文中に登場していますが婉曲ではありません。

どうしてそうなるのかは、現代語に直してみれば分かります。

訳:「どうしようか。」と思って、ぼんやり物思いにふけっていると、

もうお分かりですね。「いかがはせむ」は確かに文中にあるのですが、これは登場人物が言ったことor思ったことで、カギかっこに入れることができます。そうしてカギかっこを補ってあげると、「」の終わりの文字が「む」になっています。つまり、文中にあるけれど、文末扱いになるのですね。

どうやったら文中にカギかっこを補えると分かるのでしょうか。もちろんポイントはあります。「いかがはせむ」のすぐ後ろの「と」に注目してください。

これは通称『引用の「と」』といって、との直前が「」にくくれることを示します。

現代語でも小説などで、「〇〇」と彼は言った、のように「と」の直前が「」になっていますね。

文中でも婉曲にならないケースは、引用の「と」がポイントです。

 ポイント2:主語が何人称かを見よ

残る文法的意味は「推量」「意志」「勧誘」「適当」の4つです。

さて、ここからは「む」が文末に来るケースを考えましょう。

次のポイントとなるのは「人称」です。

「私は〜せむ。」

今僕が作った文ですが、この「む」の文法的意味は何だと思いますか。

上の4つの意味の中で一番しっくりくるのは「意志」ではないでしょうか。

このように主語が何人称かによって、ある程度ではありますが、文法的意味を絞り込むことができます。

同様にして、

「あなたは〜(2人称)」と来たら、一番自然なのは「勧誘」や「適当」ですし、

「彼(彼女)は〜(3人称)」と来たら、「推量」が妥当なところです。

古文は、たびたび主語が省略されるので、まず主語を確定させるのが読解の鉄則とされています。

主語の確定は、助動詞の意味を見分ける際にも役に立つので、そう言った意味でも重要だと言えるでしょう。

では、ポイント1と2を最後にまとめておきましょう。

<「む」「むず」の判別法>

1、「む」が文中にあるとき→婉曲

  •  ただし、「〜むは」と来たら仮定
  •  引用の「と」が後ろにある場合は、文末扱い

2、「む」が文末にあるとき→主語の人称で判断する

  •  1人称(私)→意志
  •  2人称(あなた)→勧誘・適当
  •  3人称(彼・彼女・もの)→推量

※2の判別法は万能ではないので、過信は禁物ですが、見分ける手掛かりとしてぜひ覚えておきましょう。

「む」と「ぬ」は別人!

最後に大事なことを言います。

「む」と「ぬ」は違います!

発音が似ているせいか、けっこうこれを間違える生徒が多いです。

「む」は推量で、「ぬ」は完了です。(あるいは打消「ず」の連体形。)

一方で、「む」と「ん」は同じです!

あとに続く語の関係などで、「む」を「ん」と書くことがありますが、これは「ん」という新しい助動詞が登場しているわけではなく、「む」のことです。

なので、しつこいですが、「ん」は「ぬ」と同じではありません。

なんか「む」とか「ん」とかややこしくなってきましたね・・

これもまとめておきましょう。

「む」=「ん」

「む」≠「ぬ」

「ん」≠「ぬ」

です。

「こんなの間違う人いるの?」と思ったあなた。試験本番でテンパっていたりすると意外とやってしまうのです。

「勘違いしやすいから注意だぞ」と頭に入れておくだけでもだいぶ違うので、これを読んだあなたはぜひ頭の片隅に置いておいてください。

まとめ

・推量の助動詞「む」は6つの文法的意味をもち、「すいかてかえ」と覚える

・判別は、文中なら婉曲(たまに仮定)、文末なら主語が何人称かを見る

・「む」と「ん」は同じだが、「む」と「ぬ」は違う

これで助動詞の山場、推量の「む」を攻略しました。

お疲れさまでした!

さて、これで山場を越えた助動詞は下り坂のように楽チン・・と言いたいところですが、

実は注意すべき推量系の助動詞は「む」だけではありません。

もう一つ、推量の助動詞が存在します。

通称「二大推量」(と、僕が勝手に呼んでいるだけです。)

しかし、それはまた後ほどやるとして、次回は「む」の兄弟的存在、「らむ」「けむ」を学びましょう^^

 

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